建築再生日記

建築を見たり読んだり聞いたりして、考えたことを記録するメモ帳

新建築2023年12月号

ここ10年くらい、新建築は定期的に木造特集を組んでいる。ざっと過去の履歴を見てみると、木造を集中的に取り扱ったのは2014年11月号が最初で、翌年11月号にはさっそく「木造特集」の副題が添えられ、以降2019年まで10月または11月が木造特集になっている。…

新建築2023年11月号

今月号はコミュニティをつくるという建築の可能性に焦点が当てられている。建築がこういう側面を持つことを知ったのは大学の設計課題を通してである。コミュニティ施設の併設が必須とされた集合住宅の課題では、建築というのは人が集まる場所を物理的に作る…

住宅特集 2023年12月号 「環境住宅」の展開

欠かせない側面になってきたが、全身となる特集は2016年と2018年ということで意外と少ない。外皮性能が仕様とともに記載されている点は有意義だが、全体的にシンプルな箱型が多いのが残念だった。その意味では箱の家170は難波さんが20年ほども前から続けてい…

メタル建築史

近代建築史の最も重要な素材を一つあげるなら、ほとんどの人がコンクリートを選ぶだろう。コルビジェのサヴォワ邸から安藤忠雄の住吉の長屋まで、近代建築のメルクマールとなったコンクリート造の作品は枚挙にいとまが無い。そういった歴史認識に対して、副…

住宅特集2023年9月号

NOA A HOTEL ANY WHEREは部屋毎に移動する、トレーラーハウスの作品。アーキグラムのウォーキング・シティやプラグイン・シティが建築レベルで実現しようとしている例かも知れない。可動性がプログラムの変更を容易にするという発見がなされている。その可能…

建築の7つの力

提示される7つの力の最初が「連想の力」なんだけど、本のタイトルからしてジョン・ラスキンの『建築の七燈』を連想させる。ちなみに他の6つの力は数の力、ゴシックの力、細部の力、模倣の力、地霊の力、過去の力。 kenchikusaisei.hatenablog.com はじめから…

現代建築愚策論

初版は1961年であり、収録されている原稿は1958年から60年にかけて建築雑誌に発表されたものである。タイトルから執筆当時の愚作について書いているのかと思っていたが、実際は当時都市に生まれていた建築の新しい巨大さを示しつつ、そこに(フリーランスの…

住宅特集2306号/内と外の親密な関係:

「内と外の親密な関係ー土間・テラス・光庭」という見慣れないタイトル。いつもは土間とかテラスとか庭がテーマになっていた。これらを3つまとめて副題にするのは初見じゃなかろうか。 佐藤邸|西沢立衛建築設計事務所+ミサワホーム 大企業とアトリエの協業…

「いえ」と「まち」 集合住宅の論理

著者の鈴木は、建築計画学を創設者した吉武泰水の下で51C型の開発にも従事した建築家であり、東大で研究室を主催した研究者であり、神戸芸工大の設立委員と学長を務めた教育者でもある。吉武が東大を退官した翌年の73年に(おそらく研究室を引き継ぐ形で)着…

装飾と犯罪

装飾を施す行為は文化的に劣った行為であると述べるなど、装飾が不要な理由についての論理的な説明はほとんどなく、趣味や空間を無理やり正当化しているだけのように読める部分が大半だった。 ほぼ唯一の論理的な部分は、装飾はリソースの無駄遣い(モノ自体…

新建築2022年4月号

学部生の頃に参加した国際ワークショップで、今は亡き小川広次さんが「時空を越える建築」というテーマを出された。みんなでうんうん唸った所でテーマの真意は分からずじまいだったけれど、今月号はこのテーマに応えるような作品が多い。 パリ政治学院キャン…

住宅特集2022年4月号/リノベーションの自由

構造種別と予算によって掛けられる手数と現れ方が全く異なるのがリノベーションの特徴だと思う。掲載されている作品の多くは、限られた予算で良好な住環境を獲得するために、消去法としてリノベーションが選択されている。内装だけをいじっている木造住宅は…

住宅特集2022年2月号/大地と繋がる家 環境と連続する平家の思考

定期的に組まれる平家の特集。 House in Los Vilosはチリの荒々しい自然と対峙する事で日本的なものが見えてくる。ヴォールトを自然に合わせて軟化させる態度は日本的。孫弟子によるPergolaも自然に合わせて建築が3次元的に変化するが、前者がヴォールトと…

新建築2021年7月号

ブルス・ドゥ・コメスはプンタ・デ・ラ・ドゥガーナのように入れ子の構成を作る事で新旧を対比させている。歴史的厚みをもった既存建築に、分厚いコンクリート壁をぶつけている。この壁は近代に対する信頼・憧憬にも見える。歴史的建造物に正面からぶつかる…

住宅特集2021年8月号/庭

改修 新宿ホワイトハウスは、元々は立体格子を使い続けた磯崎新の幻の処女作である。既存の最大の特徴である吹き抜けをはじめ、屋内は建築家の意向が反映された形跡が全くない。施主がアーティストだから内は自分たちでやるよということか。結果的に建築家が…

住宅特集2021年7月号/現場の力

今月の特集テーマは現場の力。 建築ができるまでのプロセスを改めて見直し、それを実践し、実際のかたちにまで昇華させた住宅を取り上げます。(略)建築を構成する素材の物質性を最大限引き出し、現代の住宅ができるまでの仕組みをひっくり返すような挑戦で…

複製技術時代の芸術/ヴァルター・ベンヤミン 読書メモ

写真をはじめとする複製技術の発達によって、「いま、ここ」にしかないことによるオリジナルのアウラが消滅した。 原始的な芸術作品は儀式の道具として誕生した。それらは一品物で、他に似たようなものを作ってもあくまでコピーあるいはレプリカである。だか…

住宅特集2021年6月号 木造その先へ

高床の家。歴史ある土地での歴史家の住宅。施主の言う「理性の設計」とは、飛躍的な仮説による設計のことだ。眺望を活かすための高床、その結果生じるピロティ、それを解放するためのキャンチを実現させる斜材、応力を分散させるための接合部と、敷地に沿っ…

新建築2021年5月号

日本女子大学 百二十周年館は1階の過半をピロティとすることでキャンパス全体をつなぐような建物としつつ、地下に設けたパティオが新たに集まる場所を提供している。杏彩館は最低高さを満たすためのヴォールトが通りから見た時の特徴的な立面を作る。なんて…

住宅特集2021年5月号

小金井の家は作品よりも批評が印象的。空間形式の変化、使い手の変化が要請した空間の繋がりの緊密さへの気づき。社会に開こうとする意思が別の位相で建築になっていることに対して歴史の創造性を感じるという感受性とそれを言葉にする文章力。こういう文章…

様式の上にあれ

村野藤吾は作風がないことが作風であるというパラドキシカルな印象を持っている。一方で、地元にいくつかある(あった)村野建築は今でも強く印象に残っている。その経験から、思想を持って丹念につくられたものにはある種の強さが宿ることを学んだ。 村野建…

住宅特集21年4月号

日本は地震や台風などの自然災害とは切っても切れない関係にあるし、近代以前は数年ごとに大火に見舞われたりして定期的に破壊される家をつくり直してきた。和辻哲郎が<風土>の中で日本の夏は繁茂する雑草を抜き続けなければならない点を指摘したように、…

新建築2021年4月号

表紙のLOUIS VUITTON GINZA NAMIKIとLOUIS VUITTON MAISON OSAKA MIDOSUJI、は論考表層は建築になり得るかの試行錯誤の一環である。店舗の外装デザインだから構造やインテリアの形や素材を直接操作することができないという条件で、いかに建築は作り得るか、…

新建築2021年3月号

旧富岡製糸場西置繭所保存整備事業は補強材と既存躯体のバランスがとても良い。既存躯体、補強鉄骨、ガラス支持材、補強強化ガラスと徐々に部材のメンバーが小さくかつ断面がシャープになっているのが良いのだろうか。一方でガラスによるハウス・イン・ハウ…

広場の造形

執筆されたのは機械化が進む19世紀末のイギリス。ラスキンの『建築の7つの燈』とほぼ同時期である。 主題はラスキンの書物と同様、急速に発達する技術が変化させる環境を如何に上手く制御するかである。 訳者の後書きによると、ジッテは19世紀半ばのウィ…

建築の7燈

工業化が進む19世紀後半に書かれた本だが、ここで提示された建築の7原則は、今日にまで影響を与えているように思う。というか、今日のいわゆる建築作品に通底する基本的価値観は、本書が決定付けたのではないかとすら思える。 ラスキンが提示した7つの燈…

住宅特集2021年3月号/閾 環境と暮らしを繋げる土間

編集後記によると「閾」というテーマで特集するのは初めてとのこと。今までは土間というテーマだった気がするが、わざわざ閾という言葉を使っている意図があるのだろう。前書きを読むと、土間の存在が、内外の境界を線ではなく広がりとして捉えられる働きを…

アメリカ大都市の死と生

自分にまとめるよりも、むちゃくちゃ分かりやすい解説からピックアップ。 著者について ジェイコブスは本書の著者、というのが1番の紹介。逆に言えば他にめぼしい実勢はない。 研究者や専門家ではないし、元から有名だった訳でもない。 一介のおばさんが都市…

新建築2021年2月号 集合住宅特集

今月は集合住宅特集。 Hotel Siroは裏側に追いやられがちな避難階段をファサードに引っ張り出している。また、中廊下形式を片廊下式に転換することで、住戸内では廊下側の水回りとバルコニー側の居室を反転している。リビングインの間取りは引き違い扉でアク…

住宅特集2021年2月号/平家という選択

平家というとほとんどが地価の安い地方が舞台になる。中でも象徴的な作品は表紙を飾る楢山の別邸で、緑に囲まれる別邸なのに400平米近くもある。のびのびとした有機的なプランをガラス張りで囲む構成はこういった敷地条件ならではだろう。造形のための造形か…