建築再生日記

建築を見たり読んだり聞いたりして、考えたことを記録するメモ帳

住宅特集2019年7月号

住宅特集2019年7月号を読みました。

 

今回はこんな感じで2本立てになっています。

 

作品12題

house S/shop B_木村松本建築設計事務所

  • 細長矩形で間仕切りのない平面、家型、板金の外壁、立面のプロポーション、大きめの開口の開け方などが木村松本っぽさを感じさせる。異様な棟状比(ほぼ1:4→高さ7,798幅員2,000)の短辺方向と浅い奥行きが強調された長辺方向(勾配屋根が少しだけ見えたり大きな開口から奥の外壁が見えることで奥行きの浅さが明示されている)が特徴的
  • 木造フレームと開口がズレて配置されているため大梁、筋交い、柱などの構造が露になる。
  • 什器を頼りにブレースを3次元的に避けながら浅い奥行きと高い天高の路面に投げ出されたような店内を歩きまわるように計画することで、建物は前面道路の電柱や並木などの周辺環境と一体化するように計画されている。
  • CH2100未満の部分は実質的に面積に算定されていない?

 

滝山の住居_タトアーキテクツ/島田陽建築設計事務所

  • 村松本と同じく1枚目の写真を見ただけで誰の作品か分かる。高く持ち上げられた小屋。家型、細長の矩形、板金の外壁と屋根。板金小波
  • 吉岡賞を受賞した六甲の住宅(住宅特集1202号)をはじめとして「斜面上に持ち上げられた小屋のような住宅」というモチーフは島田さんの定番モチーフとなっている感がある。この作品では既存のデッキを手がかりとして扇状のヴォリューム配置としてテラスを新たに生み出していることが特長と言えよう。
  • 細長い家型という同じモチーフを使いながら、木村松本のhouse S/shop B_木村松本建築設計事務所が長辺方向で外界と繋がろうとしているのに対して、滝山の住居_タトアーキテクツ/島田陽建築設計事務所は強い軸性を持たせ短辺方向で六甲の遠景を取り込もうとしているという対比が面白い。

 

町屋の工場と家_富沢真二郎+池田晃一+田中大朗/TIT

  • 構成が面白いだけに、それがもっと表現されると良かった。例えば1階は全てシャッターにしてしまえばスカイハウスばりの迫力を持たせる事が出来たのではなかろうか。まぁそもそも近代建築において構造と表現の一致が重視された理由は、表層の様式を追求するだけになっていた前近代の建築家の活動自体を批判的に乗り越えるべく深層(=構造)に積極的に関与し始めたことを表現するためだった(と僕自身は考えている)訳だけれど、もはや構造に対する建築家(や構造エンジニアとのコンビ)の主権は勝ち取って久しい訳だし、今さらわざわざ声高に主張するものでもないかも知れない。それよりも今は設計者が不特定多数になったり古典的な建築家以外の分野からも算入があったりする現状に相応しい建築のあり方を考えることなのではないかとも思う。
  • 幕板、軒、手摺などファサードに積極的に用いられたドブヅケは町工場が多そうなこの地域に良く馴染んでいると思う。

 

坂牛邸_坂牛卓+O.F.D.A.
論考2:運動と風景 坂牛卓

  • 坂牛さんよく誌面で見ることに気づいた。おそらく初めてHPを見てみるとこれまで見た事のある作品がいくつか。篠原スクールの方なのか。今回の作品がSDレビュー2017の入選作であることに気がつく。
  • 流動的に繋がった内部空間に光、風、音などの環境要素や人の流れと淀みが生じることを伺わせる。一方で外観は広くない敷地内に最大のヴォリュームを確保する以外にどのような問題意識があるかを知りたいとも思った。

 

菊井邸_SUO
論考3:集まって住むこと 周防貴之

  • 西沢立衛大八木邸(住宅特集1808号)に近い雰囲気を感じた。設計者の周防さんの経歴をみると妹島事務所・SANAAで修行していてなるほどなと。
  • 外壁に使っている木は大八木邸と同じかな?鉄骨造なのにわざわざ木を貼る理由は?
  • ひとつの家族の住まいであり4人の個人の住まいであるという両義性に応えようとするアプローチには共感するとともに、6帖〜8帖くらいのスペースを立体的に繋げる・隔てるという操作はある意味で一般的な住宅と同じようにも思われる。1つひとつのボックスがもっと境界なく溶け合っても良い気がした。

 

葉山の家_堀部安嗣建築設計事務所

  • 安定の堀部建築というか、堀部さんの建築は昔のものも今のものもほとんど同じと言ってもいいくらいで、昔の作品をみても全く色褪せない心地よさがある。
  • 新建築賞の審査員として受賞候補者に対して行ったインタビューを見返したが、細やかな配慮に対する意識の高さが凄い。このように誠実でありたい。

 

NGA House_Sanuki Daisuke architects

  • 面積や気積を大きくすると視覚的には豊かな空間となりやすく写真映えするのだけれど、温熱環境のコントロールに苦労する事が多い。ベトナムという熱帯に建つ建物では上下階の室温がかなり変わるのではないだろうか。開口がおそらくシングルガラスであるのと外壁に断熱が全くなさそうな点も気になる。

 

物質試行59 官舎プロジェクト_鈴木了二 吉村昭
論考1:小屋の5原則 鈴木了二

  • 吉岡賞の候補に西沢平良さんの宇都宮のハウス(住宅特集0901号)が候補にあがったとき、確か審査員だった西沢立衛さんが「この住宅はショールームみたいだ」と批判していた記憶があるけれど、それと似たような印象を抱いた。論考で言っていることは分かるけれど、どうしてもここで住むイメージが湧かないのは、たとえば縁側に出ても隣家が気になるだろうと思われる点など何となくリアルな生活が見えてこない点なのかな。その原因はおそらくプロトタイプの開発に力を注ぎ込み過ぎた事にあるのではないかな?と思ったり。プロトタイプと言えば51cなんかは近代日本で圧倒的に普及したプロトタイプのひとつだと思うけれど、たぶんこれは設計者(吉武如水さんたち)が人の生活をリアルに想像していたからなのではないだろうか。まぁぼくが小さな頃から何度も見て来たのは51cではなく51cを元に色んな人が色んな状況やコンテクストに応じて改良を重ねたものであり、プロトタイプとういよりはプロトタイプが状況に応じて変化したものなのだから、プロトタイプとして建設された本作品や宇都宮のハウスとは状況が違うのだけれど。

 

 

以下、そのうち追記。 

HINO1_武藤圭太郎建築設計事務所

大磯の大きな家_+ft+/髙濱史子建築設計事務所

HOUSE IN TODOROKI_noiz
論考4:ゲームエンジンで拡張する身体・空間デザイン 酒井康介+ミン・キョンソク

古市の家_神家昭雄建築研究室

 

特集企画 建築家の家具14題 

面白いのは浅子佳英+甲斐貴大かな。

 

▼購入されたい方はこちらからどうぞ。

shinkenchiku.online



 

それでは今日はこの辺で。