住宅特集2019年9月号を読みました。
今月号は別荘特集です。
住宅でなく別荘だからこそ出来ることに挑戦するとか、別荘から現代の住宅を考えるなどが必要なのだと思う。また、ネットで世界中が繋がった現代では完全な非日常というのは難しく、日常から切り離された別世界とは別のあり方が求められるのだろう。
作品16題
都市の別荘_千葉学
論考によると施主は海外住まいで頻繁に羽田発着を繰り返すらしい。中国人のアーティストだろうか?
別荘としてはもちろん、普通の住宅としてもおおきめの面積である。経験上、中国人が施主だと仮定すると、広さや大きさが要求されると思う。にもかかわらず建築家はヴォリュームを3つに分けており、生じた隙間に自然を取り込んでいる。また、ヴォリュームの分割はサイズを周囲に合わせることが発端であり、空気を読むという意味でとても日本人的である。そう考えると、自然観やスケール感も日本人的なものに見えてくる。
3つのヴォリューム間の関係や敷地と周囲の関係に気が配られているが、次号の月評で馬場さんが「千葉さんは関係性をデザインする人」と評していたのを読んでなるほどと納得。
秋月野鳥project_藤原徹平
西湖の別荘_芦沢啓治
- シンプルだし、それでいてシンプルという様式に陥っていない。まるで何かの背景として黒子に徹しているかのようだ。テキストを読むと施主が設計に先立って購入していた一枚板を天板に使うことがそもそもの設計条件だったようだ。なるほど。
Logs on the Dune_中村拓志
- 設計者がコントロールできない他者として丸太構造を用いたと説明されているが、別荘にも関わらずこれだけがっしりした空間はそれなりのテクノロジーが背景にある事は容易に想像ができるし、丸太が用いられている部分も限定的である。そう考えると丸太は野生を身にまとったファッションではないか。
小淵沢のヴィラ_山本匠一郎+小池啓介
- 今月の表紙。2011年の竣工と少し前の時代の作品。半地下を作ってガラス張りとすることでアイレベルをGLに近づける構成とか複数の屋根型・勾配天井の構成はあのころのSDレビューを思い出させる。
SDレビュー展へ。
— 渡邉 明弘 Aki-Watanabe (@Akkun_Nabechan) 2019年9月20日
昨年の展評で原田真宏さんが指摘していた“計画→対話”へと建築の主題が移り変わった事による“無色→有色”への会場の変化という流れは今年も引き継がれていたように思う。
10年前の形式合戦が続いた時代みたいに、しばらくは対話の時代が続きそうな予感。#sdレビュー pic.twitter.com/06Vfj4RdHZ
Roof/Birds_隈研吾
シロ_隈研吾
- まったく力みがない。力を抜いて取り組んだ余裕が見える。
ガムハウス_魚谷繁礼
- 黒い仕上げ、光の扱いは魚谷様式になっている。相変わらずの町屋。
- 何度も掲載されている人はそれぞれのスタイルがある。それは掲載には必要なのかも知れないけれど、やがて消費されてしまうという意味が分かってきた気もする。
銀閣寺前の家_森田一弥
- 仕上げ、構成、プロポーション。どれも心地よい。
- 施主が海外住まい(老後は安全な京都に住むかも知れないというコメントが外国人なのかと思わせなくもない)と空気を読む日本人的な建築家の感性の関係がこの作品でも見られる。
野辺山の住処 _納谷建築設計事務所
- バイクを手押ししながら進むのにちょうど良い半径、周囲の自然や地形から導かれたプランに半地下の断面計画。手慣れているんだろうなぁ。
- 小屋組も見ていて気持ちいい。生活と構造が必然性を持って一体になっている感じがする。
しふく_前田圭介/UID
- 別荘というか、はなれであり母屋の増築である作品。静の母家に対して動の空間を作るという意図があったようだけど、中心性が高い図式的なプランに見えるが、円形のスロープ、床のレベル差、ハイサイドライト、曲率の異なる円弧状の梁など非常に多彩な表情を見せる。
八ヶ岳の家_横内敏人
- 何度も登場するお馴染みのベテラン。毎度のように登場する色鉛筆で綺麗に塗られた平面図はご本人によるものだろうか。
- 色んな事が高い説得力を持って判断されているし、単純に空間が心地よさそう。ベテランだけが持ちうる完成されたスタイルというか、味のようなものが感じられる。個人的にはこういった雰囲気の建築はとても好きなのだが、それはベテランに任せれば良いのかも知れない。
- 参考:https://shinkenchiku.online/people/横内敏人建築設計事務所/
富津の週末住宅_八木敦之+倉島宏幸
- 屋根の造形は面白いし周囲への環境の応答の結果だと理解はできるものの、大きな気積は温熱環境の制御には大きな負荷を生じると思われる割に、こういう空間が必要だったというよりは屋根を架けた結果生じたように思われる。もう少しロフトとして使える場所などを作っても良かったのではなかろうか。
森のゲストハウス_矢板晋太郎+矢板千恵
- 積極的な構成を採っているがあまりその効果を理解・共感できず。
- 構造形式を吉村順三の軽井沢の山荘と比較する月表の視点はなるほど。自分も引き出しを目の前の情報ともっとスムーズにリンクさせねければ。
森のゲストハウス_矢板晋太郎+矢板千恵
- これくらい敷地と延床面積が大きくなるとどのように空間を分節したらよいか迷いそう。方法としては大きくて抽象的な空間をつくるか空間をたくさんつくって変化を出すか。
軽井沢の家_萩原剛
- 完成度が高いけどどういう系統の方だろうと思ったら、早稲田から竹中の設計部長までいった人だった。
PHASE DANCE_廣部剛司
- 敷地中央のヒメシャラが計画の中心だという説明があり、その為に円弧状のプランが計画されている。ここまでは分かる。ただ、そのプランを成立させるための構造が空間の主体となっているように思われる。現地ではヒメシャラの存在感があるのかも知れないが、写真からはそれが読み取れなかった。
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https://shinkenchiku.online/shop/jutakutokushu/jt-201909/
それでは今日はこの辺で。