住宅特集2019年11月号を読みました。
もっとも共感できるのは(そして今月号の編集の通奏低音となっているのは)メタデザインの思考と題された巻頭論壇である。
論旨をひとことで言えば「これからの作り手はユーザーに寄り添って作り続けていく存在になるよね」というもの。
ぼくの考えは以下のとおり。
- プロトタイプとしての建築物は「その建物自体を改善していく」というものと「次の建物をバージョンアップさせる」ものの2つがありそう。後者は超線型設計プロセス2.0のような感じか。
- 重要な点はどのようなフィールドバックを得るか?どのようにフィードバックを得るのか?フィードバックからどのようにバージョンアップしたのか?という「ユーザーへの寄り添い方」になると思われる。そうすると従来の建築作品とは全く異なる評価軸が生まれそう。
論壇の趣旨をもう少し詳しく整理すすると以下のとおり。
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公共建築に比較的多くみられる「プラットフォーム型」と小規模な作品で増えている「改良改善型」の2つのトレンドが発生している。どちらも共通しているのは「計画→実行」という単純な作り方が機能しなくなりつつある現代における建築の作り方として、常に改善し続けるという「時間軸の変化」とユーザーも作る側になっていくという「つくる主体の変化」である。
このような世界でデザイナーに求められる役割は「メタ環境のデザイン」と「ゴール設定」の2つになると思われる。*1
上記に加えてデザイナーに求められることとして「二次理解(ユーザーがものをどう理解しているかに対する理解)」の重要性が増すと思われる。*2
まとめると ①素人としてのユーザーの気持ちを理解しながら、②目指すゴールを供に考え、③ユーザーが自ら作る主体として活動するためのメタ環境を整える、ということか。
一方で、デザイナーの顧客であるユーザー側の変化としては「感情を持った1人の人間」と「ビッグデータを構成する情報の1部」という2点になるだろう。エッジの効いた個人同士のエモーショナルな議論と大衆から得られるビッグデータという両極端の「顧客」を相手にする世界。
そこでデザイナーが求められるのは、❶プラットフォームの全体性やバランスを考慮しつつ、❷そこから生まれる固有の価値を最大化していくような作り方なのだ。*3
このような世界では、「何をつくるべきか」も分かりづらい(だからこそプラットフォーム型と改善型が広がりつつあるのだ)。
そこでデザイナーが提供すべき動きは「寄り添い続けること」になると考えられる。それは顧客との関係性にまで波及するだろう。すなわち「求められた成果品を納品して終わり」という旧来的な1回限りの関係から、「一緒に課題を探求してプロトタイプを一緒につくり、(仮)完成後もフィードバックとバージョンアップを繰り返す」といった継続的な関係にシフトしていくものと思われる。*4
そういった役割を担うにおいて、プラットフォームにはたとえばプロトタイプをストックするという役割が期待できる。納品されたプロトタイプはフィードバックを得て改善策を練るための情報収集媒体である。ある意味プラットフォーム型と改善型が融合された状態とも言える(プラットフォームの意味が変わっているけど)。
上記の結論を建築業界にそのまま導入することは難しいけれど(実際の建築物をプロトタイプと言い切ることは通常はできないからね)、視野を建築物単体から広げて考えれば、ひとつの建築物は面的・エリア的なバージョンアップを続けるための情報収集媒体とも定義できる。
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ということで、今月号は「プロトタイプ型」と「改善型」に分けながら作品を見ていきたい。
改善型はThe Okura Tokyo_虎ノ門2-10計画設計共同体(大成建設一級建築士事務所・谷口建築設計研究所・観光企画設計社・日本設計・森村設計・NTTファシリティーズ)があげられよう。ここでは既存の心地良さを光や音や素材・ディテールだという仮説をたてた上で徹底的に数値化し、それらをバージョンアップしている。その他、増築プロジェクトのPrintmaking Studio/Frans Masereel Centrum
中山英之建築設計事務所 LISTは既存建物をプロトタイプと定義して改善したのが今回のプロジェクトだと言えよう。
一方でプラットフォーム型の作品は那須塩原まちなか交流センター くるる_藤原徹平+針谷將史+フジワラテッペイアーキテクツラボと祝祭の広場_建設コンサルタントサニー・ヒュマス・ヨコミゾマコト建築設計事務所・都市企画工房共同提案体だろう。これらはいずれも大きな屋根が全体性を与えつつこの場がプラットフォームであることを明示している。より小規模になると南三陸町生涯学習センター_八重樫直人+ノルムナルオフィス 日新設計のように複数の屋根が分散配置される作品が増える傾向にある。屋根が全体性やプラットフォームの表現から解放され、より変化をつける要素として扱われている。
屋根以外でプラットフォームを作ったという点では日本基督教団 番町教会_手塚貴晴+手塚由比/手塚建築研究所 大野博史/オーノJAPANは独自の路線を行く。ここでは俗説から聖域を囲いとる分厚い壁と天から注ぐ光、ミサ中に流れるパイプオルガンや聖書の言葉が信者をつなぐ要素であり、それらをまとめるのが建築である。
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それでは今日はこの辺で。