建築再生日記

建築を見たり読んだり聞いたりして、考えたことを記録するメモ帳

住宅特集2020年7月号

House & Restaurant の計画を最初に見たのは数年前だった気がする.柱とか壁とかいった従来のエレメントが一切ないような,何もかもがドロドロとしたコンクリートで一体になっているような構造に不思議な感覚を覚えた.今回は実際に工事が進んでいる状況を見て,その洞窟のような内部に,ボタニカルガーデンのような,一見すると自然だけれど本当の自然では実現し得ない現れに人間の手の跡を感じた.前回このプロジェクトを見た時にもう一つ印象的だったのが「長く残る場所を作って欲しい」という趣旨の施主の言葉である.この躯体はその要望に応えてのものなのだろうが,ただ物理的な長寿命化を目指すという単なる技術論ではなく,現在を相対的に眺めることで過去と未来の無限の情報の中に構造を見出すことが目指されていると論考の古さの戦略で述べられている.

ハウス・アークは予算上の制限から小さくせざるを得ない面積を小さくせざるを得ない事を逆手にとって豊かな庭を取る.こういう時は普通は敷地の片側に建物を寄せて反対側に庭を取る事をまずは考えそうなものだけれど,ここでは建物を中央に置いて周りをぐるっと庭で囲んだ上で塀を作らない事で敷地境界がキャンセルされている.コストを抑えつつ大きな気積を確保するものであろうヴォールト状の加工が軸性を生み,ガラス張りにされた短辺方向の先にはテラスや樹木が配置される事で軸は先へ先へと伸びていく.一方で長辺方向には玄関や引き戸,出窓風に設えられた畳など身体に近い位置で開口が開けられている.この対比が気持ち良い.隣地に建設予定のハハ・ハウスと連帯してどのようにこの敷地をアップデートして行くか楽しみになる.

扇ヶ谷の家は外皮性能への注力や配置計画により環境性能を確保している.経験的に知っている豊かな住まい方と近年の試行錯誤が交錯して生まれる現れが文化的厚みを増すことに繋がるのかも知れないと思われる.ニセコの家は大工とは言え施主によるセルフビルドという力技の作品であるが,この手の作品によくあるパワフルな部分だけでなく,均質な加工の中に建つ象徴的な丸太柱やブリコラージュ的な外観などどこか抽象的な感じもする.建築家なしの建築のような建築と言えば良いのか.取口さん家はあまりにも素っ気ない佇まいと内装が未来への振れ幅を担保している自由さが清々しい.真壁にされた内装も効いている.階段の家は敷地で突き当たる道路がこの住宅を通じて空に吸い込まれていくことや,この階段がだんだん梯子状になっているのが面白いと思った.灘の家は強い形式を持っているが中の写真を見ると自分がどこにいるか分からなそうで面白い.Silver Water Cabinはカラーリングが特徴的.東中野の家はスケール感や周囲を取り込む操作がとても上手い.こういう住宅を作ってみたいと思うが,設計者が中国出身の方だと知って驚いた.石神井の家もスケール感が良い.紅葉ヶ丘の家は単純な操作により自然の変化が感じられそう.支えの家は力強い構造的な形式が特徴的だから,特に外観ではRC造の壁と屋根及び木の床という構造をもっと表現しても良かったかも知れない.玉城の家2は魅力的な立面を成立させている階高の設定がものすごい.FKSはヴォリュームをずらして外部に抜ける視線が巧みである.