建築再生日記

建築を見たり読んだり聞いたりして、考えたことを記録するメモ帳

新建築 2020年12月

これからの都市と郊外に向けて明治維新に敗戦とリセットが続いた75年の周期に今年が当たるというのは面白い視点。今年はリセットが起きなかったとあるが、見方を変えると水面下でじわじわ浸透する不可視なリセットが来ているのかも。もう一つ興味深いのは、帰国を余儀なくされる外国人を除いて東京への人口流入傾向は変わらないものの、都内では通勤・通学による都心と郊外の往復が激減しているという点。これを可能にしているのは間違いなくネットによるリモートワークや宅配サービスであり、人が移動する生活からモノや情報を指導させる生活にシフトしているということだ。このシフトは既存のモノの見方を反転させつつあるようだ。従来のC+neモデルではその空白故にリスクとされてきた空き家や低密度な住宅地が、むしろ余白があることでカスタマイズできるという強みを持つ存在に反転している。カスタマイズとはつまり既存の利活用でありリノベーションなわけで、人・モノ・カネを集約する道のオルタナティブになり得るのかも知れない。掲載されている作品もリノベーションがいくつかあるし、新築作品も交通機関や都市レベルから見れば改修と言える気もする。そう考えると、全ては既存のカスタマイズとみなせるのかも知れない。

ところざわサクラタウンKADOKAWA 所沢キャンパスは、郊外の生活⇄都心の労働の往復から郊外での住職近接にシフトしたプロジェクトでは最大級のものではなかろうか。これくらいの規模になるとリモートによる離散的な動きではなく生活⇄労働の往復距離を郊外だけに縮小したと理解した方が正しい気がする。パソナが本社を淡路島に移転したりと、都心から移転してきた大規模本社機能が地方や郊外の新たな中心になって、周辺の人・モノ・カネを本社⇄自宅の間で往復させるような「カスタマイズ」が始まるかも知れない。似たような動きは過去に大学でも生じ、半世紀程度を経て都心回帰するようになった。その時とは要因が大きく異なるけれど、今回はどうなるだろう。

小林古径記念美術館小林古径邸復興事業、は大田区にあった吉田五十八による邸宅を新潟の高田城公園内に移築した上で美術館を併設するという二つの「カスタマイズ」と言えるか。解体調査は途方もない労力が注がれているし、美術館も屋根の高さや勾配など既存と連続的な計画となっているし、元々は管理棟だけだったものを増築しているのがいい。ただ、長廊によって外堀からの軸線を延長する試みがなされているものの、この建物を建てることで古径邸が閉ざされてしまっている感じがする。宮本忠長は81年に学会賞。音響工学の先駆者であり佐藤総合の創始者である佐藤武夫、早稲田建築の祖である佐藤功一という流れを汲むらしい。

NIPPON・CHA!CHA!CHA!/Bridge Sprout/Fire Foodies Club/Lakeside Dancers Clubはもう少し小さなスケールの作品で、上記のような都市に挿入するエレメントというよりは都市に寄生する宿木のような存在に見える。僕たちに与える影響も、今まで見えていた見え方とは違ったモノの見方を提示するようなカスタマイズに思える。

銀座駅リニューアル京橋江戸グラン東京虎ノ門グローバルスクエア日比谷OKUROJIは大手組織事務所による設計で交通機関と密接に関わり合う建物ばかりである。交通の側から見るといずれも改修である。地下の民地をプラットフォームとするなど、注ぎ込まれている大変な労力に脱帽しかない。

第2ターミナルビル本館南側国際線施設国際線旅客ターミナルビル再拡張工事 Ⅱ区は空港の増築。空港は今後も増築が繰り返されるだろうけど、どこかの時点で当初の方針とは全く違ったものになる気がする。

日亜化学工業 横浜研究所LIX WINGビル HOSHIはガラスの外壁に映し出される虚像をカスタマイズしている。

CIC Tokyoは色々な場所が生まれていそうだが、それはセル状の室配置により方向感覚が無くなったり廊下っぽいところが無くなったりしていることだけでなく色や照明や仕上げにバリエーションが付けられていることも影響していそう。

市川市役所 第1庁舎は道路側に階段を向けた方が良かったのではなかろうか。近畿産業信用組合本店愛知学院大学 名城公園キャンパスは省エネ方面にカスタマイズさせている訳だが、石とガラスを重ね合わせるスタディを極限まで詰めたり、アトリウムは風の流れを顕在化させるデザインを徹底するとさらにポテンシャルが発揮されたと思う。

ヒューリック両国リバーセンターはカミソリ堤防をスーパー堤防に改良することで生じるGLの変化を積極的に取り込むと同時に、都市の裏側になっていた護岸を両国国技館側に接続させようとしている。都・区・民の協業は大規模組織ならではの調整力。

最後の3作品は建物単体のリノベーション。徐々にスケールが小さくなっていく編集。むさしのエコreゾートはゴミ処理場として建てられた頑丈な躯体と大きなスケールと無骨な空間が新築では作られない空間を生んでいる。対比的に外観が主な操作の対象となっているのが兜町平和第5ビル/旧第一銀行本店附属新館再生で、こちらでは外壁の既存コンクリートのみを残し、新設するものの色を揃えることで全体が馴染んでいる。東京第8データセンターは倉庫の対荷重や耐火性を活かしてデータセンターに転用されている。既存の特徴をドライブさせるカスタマイズがたくさん登場するようになった感がある。

だいぶ箇条書きみたいになっちゃった。