日本の建築 歴史と伝統
本書の特徴は、五十嵐太郎が<日本建築史序説>と比較してまとめている。
建築史家の鈴木博之によれば、『日本建築史序説』は「日本建築史の全貌を把握し続け、その全体像を分かりやすく示すことが、太田先生の大きな目的であった」
『日本建築史序説』は通史を把握する概説書としては良書だが、読み物としては『日本の建築 歴史と伝統』の方が面白いと言っている。五十嵐さんも書いているように、僕も学部生の時に初めて読んだ『日本建築史序説』はなかなか頭に入って来なかった記憶がある。(逆に社会人になってから読み返すとこんなに効率的に通史を学べる本はないと思うようになった。)
ちなみに日本建築史の面白い本と言われれば、磯崎新の『建築における日本的なもの』と『日本の建築遺産12選』を挙げたい。太田先生による本があくまで建築史そのものを網羅的に記述しようとしているのに対して、磯崎さんは建築史に強い影響を与えたメルクマールを取り上げ、それらがどのような「事件」を引き起こしたのかを語ろうとしている。
太田先生も磯崎さんも2冊の本を書いているのだけれど、片方はフォーマルな文章で他方がラフな語り口である事が共通している。『日本建築史序説』や『建築における日本的なもの』は正確に自身の考えを記述しようと心がけた跡が見える。そのような文章は自ずと堅い口調になてくる。一方で『日本の建築 歴史と伝統』と『日本の建築遺産12選』は平易な文章で内容がすっと入ってくる。特に『日本の建築遺産12選』は知人に語りかけるような口調で書かれている点が印象的だった。