建築再生日記

建築を見たり読んだり聞いたりして、考えたことを記録するメモ帳

新建築2021年2月号 集合住宅特集

今月は集合住宅特集。

 

Hotel Siroは裏側に追いやられがちな避難階段をファサードに引っ張り出している。また、中廊下形式を片廊下式に転換することで、住戸内では廊下側の水回りとバルコニー側の居室を反転している。リビングインの間取りは引き違い扉でアクセスする上に、土間リビングと屋外廊下はレベルも仕上げも揃えられているというかなり攻めた設計になっている。ポリコレやエビデンスが無批判に重視されがちな中でこれだけの意思を持った建物は最近少ない気がする。

 

表紙を飾ったterrace H、門型フレームで構成するという形式から出発しているが、その形式を強調するのではなく、覆って隠蔽するのでもなく、ズレを顕在化する表現をしている。形式をそのまま表す作法は僕が学生だった2000年代に多く見られたけれど、それだと形式の純度を汚す要素は(時には施主や入居者の家具や持ち物でさえも)ノイズとして排除された。学生時代に形式主義的な(?)建築に面白さを感じつつも建築家のエゴを感じたのはそういうところかも知れないし、長期的には建物の寿命も短くなってしまうだろう。

長寿命化という点ではNEXT21が昔から様々な試みの実験台となっている。今回載っているのは快適性と省エネせいの両立を目指した503住戸、家族構成や住まい方に対応する順応性・可変性を追求した302・303住戸の2作。後者で試みられている可変性は建物の長寿命化には避けては通れない視点だけれども、その議論は共同住宅の量産化の契機となった51cの中で、設計者の吉武泰水らが既に試みている。つまりもう半世紀以上も続けられている議論なのに社会で実装される気配は一向にないという、なかなか難しい課題。本作で試みられているのは建具で操作できるウチドマで、建具の鍵だけで区画を変更できるのでより可変性は高いと言えると思う。ぜひ提案が実現して欲しいと思う。

NEXT21のように連続的に改修することで変わり続けることはより一般的になっていくだろうし、建築家のフィールドとしても定着化しつつあるように思う。リノア北赤羽は塀を解体してパーゴラを設置することで共用化した1階を滑らかに敷地外と接続しようとしている。押上のビル PLAT295は新築だけれどもHMの構法のリノベのようなものと言えようか。古巣の作品ヴァロータ氷川台は建物全体を再生するもので、法の余白から生まれたファサードとエントランスが特徴的だが、それがどういった価値をもたらすかも聞いてみたい。

ROPPONGI TERRACEは内覧会で拝見したが、その時のメモには「公園に隣接した傾斜地の旗竿地に、地形に合わせて傾斜スラブを浮かべ、公園と道路に伸びる竿に向けて開きつつ、屋上には360度ビューが開ける共用テラス 道路側ファサードは縦横の要素で、公園側は正方形の3次元的なズレでそれぞれ分節」と記載あり。

新潟の集合住宅Ⅲは構造と住戸をズラすことで、他の住戸の存在を感じさせるという役割を構造体に与えてようとしている。