建築再生日記

建築を見たり読んだり聞いたりして、考えたことを記録するメモ帳

アメリカ大都市の死と生

アメリカ大都市の死と生

 

自分にまとめるよりも、むちゃくちゃ分かりやすい解説からピックアップ。

 

著者について

ジェイコブスは本書の著者、というのが1番の紹介。逆に言えば他にめぼしい実勢はない。

研究者や専門家ではないし、元から有名だった訳でもない。

一介のおばさんが都市の活力の源の一端を見極め(観察)、本にまとめ(理論化)、再開発反対運動の大御所となる(実践)。

 

概要と時代背景

本書が都市計画や都市論における有数の古典である理由は、

都市の魅力の源泉である賑わいとコミュニティの役割を明確にし、それに必要な人的・物理的条件を整理した。また、それまでのスラム撤去型ブルドーザー型の再開発を糾弾し、ボトムアップの都市再生を主張した。

だが、本書が書かれた50年代はアメリカ経済が絶好調で、中間層がこぞって郊外へ移転し、都心部は見放されていた。アメリカ中の都市だけでなく、ロンドンやパリでも同様のことが起こっていた。各種のスラム再開発は、当時の人々が圧倒的に支持していた郊外的な環境を都心に持ち込む取り組みだった。

スラム再開発に対して、ジェイコブスは都市固有の魅力を訴え、複雑に絡み合っている各種の活動を強化することの重要性を主張した。それは鋭い指摘ではあったけれども、60年代末頃から理由は分からないが都市は復活したように、ジェイコブスが論じたもの以外にも年の活力にはクリティカルな要因が作用していると考えられる。

 

本書の意義

ケヴィン・リンチが『都市のイメージ』で単調な団地群は人がイメージしにくく記憶に残らないことや、車両交通の多い道路が地区の分断をもたらすことを示しているように、個別の問題に対する分析はあった。本書はそこを一歩こえて、知らない人々が集まって、過度に干渉せずに関係を築けるという都市の本質をついた。そして、それを下支えする存在として街路(そこでは多様な商業経済活動やついでの活動が生まれる)を見出した。それを可能にしたのが、アマチュアゆえの観察力と総合力だった。

さらに、ジェイコブスは都市の活力が複雑系の早発的な秩序であるという90年代に普及する概念を先取りするだけでなく、その開祖とされるウィーバー論文を見つけて言及している。また、コミュニティにおけるハブと弱い繋がりの重要性を指摘し、つまり今流行りのネットワーク理論にも触れている。

 

マチュアゆえの観察力と総合力でこのような到達点にたどり着く一方で、定義のない印象批判、データや根拠の不在、目先の少数の事例を元にした過度の一般化など、アマチュアゆえの弱点もあった。

 

本書の影響

発表と同時に反響を呼んだが、本書は大きな影響を与えたというよりは時代の結節点として理解されるべき。ブルドーザー型の再開発に対する反対の声は本書以前から高まりつつあったことは、ロックフェラー財団が本書の出版を財政的に支援したことや、ブルドーザー型再開発を主導していたロバート・モーゼスがスラム取り壊し委員会を60年に解散していたことが、物語っている。

一方で本書によって勇気づけられた市民活動の高まりで行政が弱腰になった結果、インフラ投資が軽視され、専門家の有益な意見まで否定されてしまい、過度の住民エゴが都市の発展を阻害しているという指摘もある。60年代の都市の復活には、おそらくジェイコブスが主張した市民活動よりもモーゼスが整備した都市インフラの方が寄与している。