建築再生日記

建築を見たり読んだり聞いたりして、考えたことを記録するメモ帳

「いえ」と「まち」 集合住宅の論理

著者の鈴木は、建築計画学を創設者した吉武泰水の下で51C型の開発にも従事した建築家であり、東大で研究室を主催した研究者であり、神戸芸工大の設立委員と学長を務めた教育者でもある。吉武が東大を退官した翌年の73年に(おそらく研究室を引き継ぐ形で)着任し、同年に本書の元になったハウジング・スタディの共同研究を開始している。その10年後には本書が出版されている。つまり、本書は鈴木が研究者として最も精力的に活動した時期の記録である。本書が出版されてから4年後の88年には退官して、設立委員だった神戸芸工大で着任している事から、最前線の研究者としての自分にケリを付ける意味合いもあったのかも知れない。同時に、本書はおそらく吉武泰水と鈴木による建築計画学(における集合住宅の分野)の成果を、体系化し、後世に伝える目的があったのだと思う。

「いえ」と「まち」―住居集合の論理 (SD選書 (190)) (SD選書 190)

それだけなら論文集でも良さそうだが、わざわざ住宅論としたのは、鈴木なりのあるべき住宅像や思想のようなものを伝えたかったからだろう。具体的には以下3点である。

  1. 時間的変化の中で生活と住居を捉えること
  2. 一般性の中に個別性を尊重すること
  3. 個と集合を関係づけ統合すること

自分が初めて鈴木の考えに触れたのは、院生時代手に《五一C白書ー私の建築系学戦後史》を読んだ時だと思う。上記の3点の詳細な検討の経緯が伺え、自分が考えている事は数十年も前に考え尽くされていたことに愕然とした。

同時に、これらは現代の日本で建築をつくる上でも欠かせない課題の一つだと思う。