見え隠れする都市ー槇文彦
「見え隠れする都市」を読みました。
ある人のデザインは作品単体だけでなくその人に繋がる文脈とセットの方が理解が深まる。
— 渡邉 明弘 Aki-Watanabe (@Akkun_Nabechan) 2019年7月14日
槇文彦《見え隠れする都市》を読んで槇研出身だった学部時代のある先生の作品が色んな点で影響を受けていた、槇さんのオマージュ・再構築だと気づいた日曜の朝です。 pic.twitter.com/dVeWeccJnl
著者である槇文彦さんと言えば、ぼくにとってはちょっとした特別な存在である。
大学1年生の頃に初めて買った建築本は槇さんの作品集とコルビジェの解説本だった。
翌年に初めて上京した建築見学一人旅でのハイライトはヒルサイドテラスだった。
通っていた大学は唯一の設計の教員が槇研出身だった。
だから槇さんの著作はいつかきちんと読まなければと思っていた。
なのについつい後回しにしてしまったせいで、本書を手にするまでに10年以上もかかってしまった。
さて、本書の内容をざっくりまとめると、起伏にとんだ江戸・東京という都市を観察することで、武家屋敷・長屋・裏長屋・郊外住宅という日本の住宅におけるプロトタイプがある事を指摘した上で、それらがどのような表層=道との関係を持つかを整理するとともに、道にも城下町の「尾根道・通り・路地」や農村の「街道・畦道・ニワ」といったヒエラルキー・特長があり、道が構成するグリッドが日本と西洋では根本的に異なる存在である、といった事が写真や図解とともに考察・解説されたものである。
本書によれば、日本の都市が特徴的な点は西洋的な都市が「中心ー区画ー垂直」指向であるのに対して、「脱中心ー包摂ー水平」的な空間を指向である点である。
これを一言で表した言葉が「奥性」なる概念だということになるだろうが、日本的な都市がこのような「奥性」を持つようになったのは、日本人の自然観に由来すると論じられている。
日本人は狭い国土の中で比較的温暖な気候に抱かれて農耕をしてきた。自然は恵みをもたらすものであり共に生きる存在であり信仰の対象となった。
一方で日本列島以外で発達した古代文明が対峙した自然は彼らが砂漠や海や荒野であり、無限の広がりを持ち危険な存在であった。
彼らが発達させてきた都市が「カオスの中に堅い殻で区画されたコモスを構築する」といったはごく自然なことであり、「自然に寄り添いつつ文明を発達させる」という戦略をとったぼくたち日本人がむしろ特異な存在なのである。
そう言えば、レム・コールハースが展開する「voidの戦略」はまさに「カオスの中に堅い殻で区画されたコモスを構築する」という西洋人の世界観・建築観そのものではないか。「錯乱のニューヨーク」、「S,M,L,XL」、「行動主義」を読んどいて良かった。
それに、初めてのヨーロッパ旅行で泊まった屋根裏部屋から見えたパリ大聖堂は、まさにパリの中心として屹立していた。いや、ただ僕の記憶が改ざんされて見えたと思い込んでいるだけで実際には見えなかったかも知れない。でもあの塔を感じたことは事実であり、その事がパリという都市に明確な中心が存在することを物語っている。
昔の気付きと今の気付きが幾重にも線で繋がる。
これだから建築は面白い。
西洋の都市ではパリ大聖堂のような中心がある一方、 日本の都市で中心を挙げるとするならば城や御所ということになるだろう。
だが、日本の都市は輪郭が曖昧であることから御所や江戸城はノートルダムほどの中心性は持ち得ていない。さらに、都市を構成するグリッドは外の山々や寺社に向かっており、都市の重心は外に外に流れ出る。
山はハレの場であり信仰の対象である。
人が住むケの場は里である。
学部時代の教員が当時、「サトヤマビレッジ」という開発計画に取り組んでいた。サトヤマとは里と山の融合だろう。人間の住処ばかり増やそうとする従来型の宅地開発を批判的に乗り越える方法として、里(人の住処)と一緒に山(自然)も増やす仕組みが考えられた。これがサトヤマビレッジというプロジェクトである。
また、彼は大学に就く前に働いていた会社で担当した作品を見せてくれたことがあった。それらは「まちの表層」で論じられていたエッセンスを彼なりに解釈して実践したものであるように思われた。
もちろんそれは槇さん本人の作品でも同様であり、ヒルサイドテラスアネックスのアルミスクリーンはその典型的な例であろう。
そのことが本書を読む事で理解できた。
昔の気付きと今の気付きが幾重にも線で繋がる。
これだから建築は面白い。
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- 作者: 槙文彦、若月幸敏、大野秀敏、高谷時彦
- 出版社/メーカー: 鹿島出版会
- 発売日: 1980/06/30
- メディア: 単行本
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それでは今日はこの辺で。