建築再生日記

建築を見たり読んだり聞いたりして、考えたことを記録するメモ帳

2020-01-01から1年間の記事一覧

日本の建築 歴史と伝統

本書の特徴は、五十嵐太郎が<日本建築史序説>と比較してまとめている。 建築史家の鈴木博之によれば、『日本建築史序説』は「日本建築史の全貌を把握し続け、その全体像を分かりやすく示すことが、太田先生の大きな目的であった」 『日本建築史序説』は通…

住宅特集2021年1月号 住宅のこれから

総括で議論されていた、歴史性や社会性を踏まえた意味論的なものの見方とそれらをキャンセルした動物的なものの見方という対比は、自分としても興味を持つところ。再生建築では時間の経過によって竣工当時の意味が失われてしまった形を活用することが大なり…

コラージュ・シティ

前半は建築史や都市史を俯瞰しつつ、近代建築による近代都市の提案はいずれも実現しなかったと批判史、さらに技術進化を即座に人類の進歩とつなげる近代の精神をも批判する。近代と対をなすものとして伝統が引き合いに出されるが、伝統回帰を主張する訳では…

新建築 2020年12月

これからの都市と郊外に向けては明治維新に敗戦とリセットが続いた75年の周期に今年が当たるというのは面白い視点。今年はリセットが起きなかったとあるが、見方を変えると水面下でじわじわ浸透する不可視なリセットが来ているのかも。もう一つ興味深いのは…

住宅特集2020年12月号 光と風のデザイン

内藤さんが昔東大で講義を持っていた頃に「デザインとは翻訳である」と教えていたそうだ。翻訳の対象は技術、場所、時間の3つだった気がする。いずれも共通しているのは不可視の事象をモノによって可視化する点である。 kenchikusaisei.hatenablog.com そう…

新建築2020年11月号/木造特集

今月は木造特集である。国家的な後押しもあって需要が高まっているせいか、最近は毎月のように木造の中高層が掲載されている印象がある。それらの作品はどれも木造であることを積極的に表現しようとしており、建築がハコモノと呼ばれて悪者扱いされていた頃…

風土

安藤忠雄が好んで熟読したというエピソードが本書を知ったきっかけだったと記憶している。学生時代に読んだおぼろげな記憶といえば、世界を3つの気候帯に分類して整理したという程度のものだった。 本書のめざすところは人間存在の構造契機としての風土性を…

住宅特集2020年11月号  スケールとディテール 第36回吉岡賞

ディテールとは単なる物理的な詳細という意味にとどまらず、作品のコンセプトや建築家の信念が現れる箇所なのではないか、という編集の視点には共感する。中でも、副題にあるように環境に開くことに注目しているようだ。住宅特集には住宅を開くというワード…

住宅特集 2020年10月号 別荘

10月から東京もgotoトラベルキャンペーンの対象に追加され、首相は東南アジアに外遊してビジネス関連の入国を解禁する方向で調整が始まっている。今朝のニュースでは高齢者施設でも面会が解禁され始めていると報じられていた。感染拡大が一定程度抑えられて…

集落の教え100、建築家なしの建築

原さんが東大在職中に世界中の集落を調査していたことはあまりに有名だし、若い頃に同行した小嶋さん、隈さん、山本さん(これは知らなかった)が強く影響を受けたことは想像に難くない。 本書はその調査から得られた空間デザイン上の100の教訓を列挙してい…

新建築2020年10月号

今月号の主題は時が作る環境という論壇のテーマが示しているように、建築に時間軸を導入することである。近代建築には時間軸がないとか、竣工時が最も美しいことが欠点であるといった批評はこれまで何度も目にしてきた。日本の近代建築における時間軸を敢え…

新建築2020年9月

横浜市役所は槇文彦の作家性とDB方式の集団性・匿名性が同居している。初期の頃から計画や表現の手法が一貫していること、それが長く通用し続けることに勇気をもらうとともに自分も内にあるイメージを実現させ続けたいと思う。こども本の森 中之島はアーバン…

住宅特集2020年9月号 これからの間取り・キッチン

僕が学生だった2010年頃は間取りの時期だったように思う。競って目新しい空間形式を生み出そうという空気感が漂い、その空気をもっと濃いところで感じたいと思って僕は大学院への進学を期に上京した。それも2010年代になると陰りを潜め、かわりにフラグメン…

点・線・面、負ける建築/隈研吾

隈さんの代表的な著書を3つ挙げるなら『点・線・面』、『負ける建築』、『10宅論』だろう。隈さん自身もきっとそういう意気込みで本書を書いたに違いない。『点・線・面』は装丁からして明らかに『負ける建築』が意識されているし、序文の冒頭から『負ける建…

新建築2020年7月

WITH HARAJUKUは性格の異なる地域同士を接続させようという意欲的な試みが目指されているものの、議論を呼ぶような挑戦は回避されているように思える。RCと木の端正なファサードが特にそれを感じさせる。日本人にとって重要な場所でそのような建築が量産され…

住宅特集2020年8月号 特集 庭 人と自然を繋ぐもの

文明と自然の関わりは古今東西の重要なテーマであり続けているが、ほとんど全ての文明が脅威としての自然に対峙するか大自然の一部として溶け込むという戦略を取ってきた中で、日本は里山に代表されるような人工的な自然と共生するというユニークな感覚を磨…

住宅特集2020年7月号

House & Restaurant の計画を最初に見たのは数年前だった気がする.柱とか壁とかいった従来のエレメントが一切ないような,何もかもがドロドロとしたコンクリートで一体になっているような構造に不思議な感覚を覚えた.今回は実際に工事が進んでいる状況を見…

新建築2020年06月号

オンライン授業の課題と可能性 少しづつ集まり方のあり方が試されている.対面で伝え合えることとそうでないことの違いを探りながら試行錯誤がなされているが,建築の教育や実務における大きな変化は,コミュニケーションの道具が実空間のモノから画面の中の…

ルイス・カーン建築論集

西洋の文化は,世の中は単純で美しい法則で動いているという信仰に基づくギリシャ哲学と,世界の創造主を前提とする一神教(キリスト教)のハイブリッドだと思っている.言い換えれば,ギリシャ哲学とキリスト教を両輪として「全知全能の神が作った究極に合…

住宅特集200年6月号

巻頭論文リノベーションの点と線は、近現代の建築が新築と保存の二項対立に陥っている点を批判し、改修工事を再開発・再利用・文化財の3つが複合した行為として捉えようとしている。点としての建築家への評価と、線としての建物の評価。特集記事戦後リノベー…

乾久美子建築設計事務所の仕事

たぶん乾さんが自身の建築観みたいなものをかたちづくったのは、芸大に着任して行ったリサーチを行った頃ではないかと思う。 リサーチの結果は「小さな風景からの学び」としてまとめられた。 jp.toto.com ギャラ間の展示会ではタイトルにされたばかりでなく…

コモナリティーズ

2014年の発行で、たぶんその頃に買った本だと思う。なぜ買ったのかは全く覚えていないし中身もほとんど記憶に残っていなかった。 本の中身を一言で言えば「無人格で均一な個とそれらを束ねる公ではなく人格のある個が社会をつくる方法を考えた」ということな…

建築家・坂本一成の世界

全体を単一の論理で展開しないというのが坂本一成に対する評価であるくらいの認識しかなく、書籍や作品集間もちろん具体的な作品やテキストを読み込んだのも今回が初めてだと思う。 デビュー作の「散田の家」ですでに「白の家」からの強い影響を受けるなど、…

新建築2020年05月号

先日、4月6日になされた緊急事態宣言は5月末まで延長されることが決まった。3密は避けなければならないが様々な活動の全てをストップする訳にもいかず、緊急事態宣言直後の4月半ばに行われた緊急アンケートによると、大半の事務所や大学がテレワーク等によ…

都市・住宅論

東孝光の作品に初めて出会ったのは、上京して最初の現場見学で現場の近くに『塔の家』がありますよとメールで教えられた時だったと思う。当時はそれが現場に来るついでに見てきなさい、というメッセージに気づかないくらいに鈍感だったから、確かその日は見…

建築の多様性と対立性

スカーリ教授は、ル・コルビジェを絶えず参照しながら、ヴァンチューリの反英雄的で包括的、反語的、歴史主義的な思考の見取り図を完璧なまでに描き切っている。加えて(略)『ラスベガス』との相補関係にまで触れている。 恐らくこの本は、1923年のル・コル…

新建築2020年4月号

巻頭でレポートされているイベントには言ったが、木造で構築できる架構の可能性が広がっている様にワクワクした。虎ノ門ヒルズビジネスタワーや東京メトロ銀座線渋谷駅は建築が敷地内の出来事でなく都市の活動そのものだと思える中、そういった規模で木造が…

形の合成に関するノート/都市はツリーではない

C・アレグザンダーを知ったのは、学部4年生の時に指導教官から「パタン・ランゲージ」を勧められたことがきっかけだった。その内容は、都市を成立させる「パタン」を言語のように組み合わせることで全体のストーリーを紡いでいくというものだが、そのアイデ…

構造デザイン講義・環境デザイン講義・形態デザイン講義/内藤廣

内藤さんに対するぼくのイメージの源泉は2つある。 ひとつはぼくが唯一経験した作品の島根県芸術文化センターで、何か目まぐるしく変わる時代や流行とは無縁のことを対象としているであろうことを感じた。 もうひとつは、学生時代の助教から聞いた「内藤事務…

住宅特集20年05月号/土間・縁側

有史以来、住宅は開くことと閉じることというアンビバレンツな性質を様々な方法で統合させてきた。その進化の過程は20世紀後半までの住宅史を語る上で欠かせないものだと思われるし、その意味で土間と縁側の変遷は日本住宅史そのものとすら言えるかも知れな…