建築再生日記

建築を見たり読んだり聞いたりして、考えたことを記録するメモ帳

集落の教え100、建築家なしの建築

集落の教え100

原さんが東大在職中に世界中の集落を調査していたことはあまりに有名だし、若い頃に同行した小嶋さん、隈さん、山本さん(これは知らなかった)が強く影響を受けたことは想像に難くない。

本書はその調査から得られた空間デザイン上の100の教訓を列挙しているものであるが、個人的にはその後に付録のように添えられている捕注に興味をそそられた。原さんにより体系化された集落の教えよりもむしろ集落そのものの方に興味を覚えたのかも知れない。たぶん原さんもこの本で集落からの学びを体系化し切れたとは思っていなかったはずで、だから数式に興味を移していったのだと思う。つまり、自分が見たものをいかに記述するかを模索するようになったのだ。次はその内容を読んでみたい。

その他で興味を持ったこととしては、原さんが集落や建築や都市を自然に対する人間の反応と見ているように思われる点、部分の総体としての全体ではなく部分の集合としての全体という部分と全体の関係などが挙げられる。原さんの本は以前「空間<機能から様相へ>」にチャレンジしたが難し過ぎて挫折したままであるが、本書が理解の助けとなる気がする。

 

たまたま本書の次に読んだ本が「建築家なしの建築」であったが、原さんは明らかにこの本に影響を受けて集落調査を始めたのではないかと思う。原さん自身による言及は見たことがないので何とも言えないけれど。

 

建築家なしの建築 (SD選書 (184))

「建築家なしの建築」の内容は「集落の教え」同様、様々な集落をその特徴と共に列挙するというものである。本書が1964年に行われた「<建築家なしの建築>展」に合わせて著されたことからも、ただ観察するだけでなく俯瞰的に概観して構造化しようとする意図が見て取れる。また、個人による構想とは異なる構想力・想像力の発見、ポストコロニアリズム的・エキゾチズム的な視点、自ら現地に行ってみる点も原の視点と共通している。というより、やはり原さんはこの本(や展覧会)を見て自分の活動に取り入れたのではなかろうか。役者の後書きでは次のように書かれている。

本書が役割が無名の工匠による風土的建築に対する偏見と無視を取り払うのに果たした役割の大きさは疑うべくもない。〜発行から10年を経た今日、〜無名の風土的建築物の中に価値や意味を見出すことはむしろ一種の風潮と化しつつある。

この活動が世界中で展開されたとして、その役割を日本で果たしたのは原研究室だったと考えるのは不自然だと思われない。若い頃にこの活動に携わった弟子世代が今まさに原研究室での活動に影響を受けて創作しているということだ。

 

集落調査から受けた影響は自邸など原さんの設計活動にも強く現れているが、特徴的なのはむしろ得られたデータを客観的・数学的に記述しようと試みた点ではなかろうか。具体的にどう言ったテキストを残しているかは今後の宿題として、パタン・ランゲージ(C・アレグザンダー)なんかはその最たるものだと思われる。

パタン・ランゲージ―環境設計の手引

 

14時間+2時間