建築再生日記

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メタル建築史

メタル建築史 (SD選書268)

近代建築史の最も重要な素材を一つあげるなら、ほとんどの人がコンクリートを選ぶだろう。コルビジェサヴォワ邸から安藤忠雄住吉の長屋まで、近代建築のメルクマールとなったコンクリート造の作品は枚挙にいとまが無い。そういった歴史認識に対して、副題で「もうひとつの近代建築史」と謳う本書では、近代建築史の主流が傍に置いていた金属の建築が紡いできた歴史に焦点を当てている。

その中心となるのは鉄骨造である。近代の幕開けと共に主要な建材の場に躍り出て以来、初期の造形性が着目された時代から伝統的な美学に基づいた重厚なミース時代を経て、軽快な構造に発展して来たストーリーが描かれている。欧州で古来から主要な素材であり、常に重厚な存在であり続けてきたコンクリートとは対照的に描かれている。

こうした事実を拾い上げることが本書の目的の一つであるが、もう一つの目的は、傍流として退けられたメタル建築こそが、サステナブルデザインの時代となる近未来の建築では主流になるという仮説を提示している。著者がこのように考える根拠はメタル建築の軽い構造にあるようだ。

 

重いコンクリート建築/軽い金属建築という線引きをした建築史の代表例には「テクトニック・カルチャー」が挙げられる。本書に照らすと前者がステレオトミックなもの、後者がテクトニックなものに該当するだろう。両者の弁証法の結果としてテクトニックな近代建築に辿り着くという近代建築史観は、フランプトンなりのメインストーリーに対するオルタナティブである。

オルタナティブ・ストーリーとしての建築史には「錯乱のニューヨーク」を挙げる必要がある。こちらは「人間の理念がモダン・デザインが発明した」というメインストーリーに対して「近代建築は人間の欲望と資本主義の原理により誕生した」というオルタナティブである。

以上はどちらも近代建築史観のオルタナティブであるが、建築史観そのものを改めようという試みもある。それが「リノベーション建築史」である。