建築再生日記

建築を見たり読んだり聞いたりして、考えたことを記録するメモ帳

新建築2020年10月号

今月号の主題は時が作る環境という論壇のテーマが示しているように、建築に時間軸を導入することである。近代建築には時間軸がないとか、竣工時が最も美しいことが欠点であるといった批評はこれまで何度も目にしてきた。日本の近代建築における時間軸を敢えて挙げるなら、減価償却の耐用年数だろう。建物は竣工時から国税庁が決めた年月をかけて償却されるという考えであり、大半のローンはこの期間の中で返済することが求められる。だから、建物は最低でも耐用年数分の物理的な寿命が望まれるし、耐用年数が過ぎて減価償却が完了したらできるだけ投資せずに利用するのが基本的には経済的に合理的であるという図式が大半の建物に当てはまる。さらに、この図式により建物は一定期間ごとに建て替え続けることにより経済を活性化させる強精剤の役割を担わされている。そういった前提に立つ限り、単一の建築が担うことのできる時間はせいぜい半世紀くらいが限界となる。今回の掲載作品はどれも時間と共に環境を作る試みがなされているけれど、時間の射程では数十年に止まっている気がした。人間なんてせいぜい自分が生きている間ぐらいの事しか考えられないのだから、数十年先のことを考えつつ次の世代がそれを引き継ぐことが大切なのかも知れない。

アクロス福岡に初めて触れた記憶は大学1、2年生の頃だったと思うが、ひな壇状の屋上緑化は建築に対する知識も関心もほとんど一般人と同程度だった当時の自分にも何かしら訴えかけるものがあった。大学院生になってからエミリオ・アンバースという建築家による作品であることを知り、それから10年経った今また新しい情報を学んでいる。この作品があらゆる人に訴えかける建築の一つになった理由のひとつは、考え抜くという姿勢が時空間的に様々なスケールで徹底されているからではなかろうか。他の都市に比べて少ない公園の面積の増加、敷地と周辺のポテンシャルと福岡都市圏におけるポジショニングに対する構想の延長にひな壇状の屋上緑化がある。数十年を掛けて建物、敷地、都市を育てるという意志の現れに当時の僕は触れたのではないかと今になって思う。

TOKYO MIDORI LABO.浜町LAB.およびT-HOUSE New Balanceは地元不動産会社による日本橋の連続的なミニ開発である。植物と一体となった屋外スペースを展開するTOKYO MIDORI LAB.、o/hが寄生するようにリノベされた浜町LAB.、インテリアのようで内装の下地・構造のような既存軸組を持つT-HOUSE New Balanceのそれぞれに建築やテナントとが一体で都市を作ろうとする事業者の意思がある。その意思には賛成するが、建物の使い手の意向は数年〜十数年ぐらいか、長くても四半世紀ぐらいであることが多いと思われる。一方で建築の寿命は少なくともその数倍に及ぶことが前提にされるべきであろうから、(建築の寿命に比べて)切的な使い手の意向に従順になりすぎるのは首をかしげたくなる。とは言っても資本主義に基づく経済的な側面が建築行為の主な動機である以上(そして動機でないとしても大きく影響する要因である以上)、テナント の意向が大きく影響するのは構造的に避けられない。そのテナント が視野に入れているのは比較的短い期間についてであり(コロナ禍により多くの事業が廃業の危機を迎えていることがその査証だ)、そのことが建物の寿命に大きく影響している気がする。数世紀に及ぶ長寿企業の多くが日本にあると同時に日本の建築物の寿命が比較的短いという事実とは矛盾する気もするけれども。これが都市を育てる建築だとすれば軽井沢風越学園は人を育てる建築である。遠くにそびえる浅間山を中心に据えたことで建物自身の中に中心が無くなっている。そのことがピラミッド型の人の繋がり方をもたらしているように思われる。浅間山という、建築にとっても組織にとっても外部であり雄大な存在に依って立つ事で、児童が主体的に学ぶ環境が獲得されているように思われる。広野町こども園東日本大震災から逃れて避難してきた子ども達を受け入れるという地域の意思、海と山という自然に寄り添于と同時に他の建物との連続的な関係を作るという建築家の姿勢などが上記の作品と共通するように思われる。いずれの作品も、都市の構造の中での当該敷地や建物のポテンシャルや役割を見つめていることが、長期的な視野に立つ姿勢をもたらしているように思われる。また、守口市立図書館のような平成期の建物の改修はこれから頻発するだろう。バブル期の贅沢な仕上げ、建築確認が民間に開放されたものの驚異的な検査りつの低さとなっているH10年頃などの建物が次の課題だ。躯体の性能は旧耐震の建物に比べて格段に良いだろうから、回収し続けながらより長期的な使用を可能にする下地としての建築が求められるようになろう。

東京ミズマチ、すみだリバーウォーク浅草寺からスカイツリーへと至る歩行者軸を強化するという構想に共感させられたり、河川上の使用許可を取得した上で既存の橋梁に付加させることで遊歩道を整備すると言った構想を実現するためのスキームはなるほどと感心させられた。設計やデザインは安田不動産のように建築家に依頼した方が良い空間になったように思う。僕たちとしては、構想の段階から相談されるような存在を目指して頑張らねばなるまい。同じく鉄道関連の作品であるJR横浜タワー・JR横浜鶴屋町ビルはホーム側の「裏面」にデッキを設けている。

大井町駅前公衆便所をはじめとした一連の公衆トイレは、若手向けのアイディアコンペで勝ち残りそうな案が実現しており、自由な発想のもとで作られた建物は役に立つのだと勇気づけられる。

foresttaカランころは一見すると木造かと思ったが実は樹木のような鉄骨に貼られた杉板である。面白いのは、ジョンソン・ワックス本社ビルに代表される地上の点が上にいくにつれて四方八方に広がっていく構造のように見えると同時に、アーチが交差するゴシック型の空間のようにも見える、空間の両義性が感じられることだと思う。

桃沢野外活動センター石山公園の屋根の共に山中に建てられつつも対照的な姿、WORK x action Site 軽井沢mother's+が似たような環境の中で自らのポジショニングを図っている点なども面白かった。

 

 

Otemachi One