建築再生日記

建築を見たり読んだり聞いたりして、考えたことを記録するメモ帳

新建築2022年4月号

学部生の頃に参加した国際ワークショップで、今は亡き小川広次さんが「時空を越える建築」というテーマを出された。みんなでうんうん唸った所でテーマの真意は分からずじまいだったけれど、今月号はこのテーマに応えるような作品が多い。

 

パリ政治学院キャンパスはフランスの歴史を繋ぐ事ために、時間も空間も別々のところにいる建築家が協業している。築200年の修道院(途中で国有の武器庫)を校舎にコンバージョンしたもので、既存の保存改修から転用の内装、新築部分をそれぞれの建築家が担当している。色々な時代の色々な使われ方を、色々な人たちが考えている、その蓄積がある。ザ・アル・サーニ・コレクションはパリ中心地のコンコルド広場の正面に位置するオテル・ドゥ・ラ・マリンが美術館にコンバージョンされたもの。展示室を暗闇にすることで時間と空間を忘れさせ、古代から現在までの時間を繋ぐことを試みている。同時に床の御影石は既存のフローリングの貼り方を踏襲し、微かに既存を継承している。

寧波スマートシティセンター鯤鵬館はどこまでが敷地なのか分からないぐらいに自然に溶け込む。一方でOAK BLD Ⅱは都市の楔となるような圧巻の造形。街の結節点となる交差点だからこそのやり方。

黒田泰蔵ギャラリーはRC造のようなプラン、屋根は鉄骨造、仕上げと主な構造は木という不思議な建築。施主の黒田さんは自分の死期が近いことを悟ってギャラリーを作ろうと考えたのだろうか。そういう時に設計を依頼される建築家になりたい。NAGAREYAMA おおたかの森 GARDENS アゼリアテラスは躯体と外皮をアトリエで設計している。良くれば分かるぐらいのズレを柱とバルコニー

にもたらしている。

クライアントの100周年記念として計画された松崎幼稚園遊戯室棟は、残した既存を覆うヴォリュームを、敷地内外の関係まで考慮して計画している。新設した架構や外皮と、残した軸組との関係についても言及があるとより欲しかった。春日台センターセンターは公的制度からこぼれ落ちる人をも取り込むために、7つの機能を配置した3棟に分けることで軸を通し、大屋根はそれらを取りまとめるとともに庇が延びて軒下を作る。普通なら庇と路地と面積の何かを諦めるところ。途方もない労力をかけて企画・構想がなされているが、その費用は誰がどこから捻出しているのだろう。法林寺本堂の設計者である古森さんは、外壁に囲われた天井グリッドから自然光を拡散して取り入れたり重力換気を行う試みを何度か実践されている。今回は同様の作り方をされた本堂を、下屋が取り囲む構成になっていて、2つの空間の対称性が特徴的。一宮聖光教会は既存の要素を継承しつつ視認性と安全性を高める計画。幼稚園、福祉施設、寺院と言えば、かつては閉鎖的に管理されてきた気がするのだけれど、どれもまちに開こうとしている。

サ高住・ポータラカ+デザインサービス・カノンは施設ではない、地域医療の拠点を作りたいという医師の思いに答えた作品。配置、ボリュームの形状、プランとも意図が明確。デイサービスがスーパー銭湯のような雰囲気に仕上がっているのも良い。新富士ホスピス|いまここ|終末医療の施設でもあり終の棲家でもある。中廊下型のプランを少し変形させ仕上げを工夫することで、施設感が和らぎ住宅のような雰囲気に仕上がっている。

愛媛県歯科医師会館はボリューム配置、プログラム、構造計画の統合が可視化されているとより良かった。慈恵大学西新橋キャンパス再整備計画、近畿大学E館(KDIX)、熊本保健科学大学 新レストランは規模が大きくなればなるほど吹き抜けとか間接照明のような常套手段を散りばめてシークエンスを作らざるを得ない事を教えてくれる。