建築再生日記

建築を見たり読んだり聞いたりして、考えたことを記録するメモ帳

住宅特集2021年7月号/現場の力

今月の特集テーマは現場の力

建築ができるまでのプロセスを改めて見直し、それを実践し、実際のかたちにまで昇華させた住宅を取り上げます。(略)建築を構成する素材の物質性を最大限引き出し、現代の住宅ができるまでの仕組みをひっくり返すような挑戦です。

と誌面に書かれている。言い換えれば、新たな構法、工法、素材、体制などを構築した作品を集めたということだろうか。僕が建築を学び始めた2000年代は形式的な作品が誌面を賑わせていたが、数年くらい前から技術論に終始しがちなテクニカルなアプローチの建築論に重点が移ってきた感があるように思う。そういった意味では庭とか平家といった古典的なテーマに比べて現代的なテーマである。

さて、巻頭のヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館展示は、新型コロナウィルスの流行によって対面での意思疎通が困難になった事も影響してか、まさに今回のテーマそのもののような作品である。リアルの場では解体された部材をそのものを展示することで日本の木造住宅が建設されたプロセスを紹介し、テキストデータの公開はネット上とする展示のあり方は、現場だから出来る事を考え抜いた末の到達点である。

Pine Concrete Houseは敷地条件から素材と工法を決定し、そこからさらに型枠を木造部分の構造と仕上げに再利用することで特異な建築が出来ているし、そのことが表現されてもいると思う。このような現場に身を置いて考える方法の最たるものは自分で施工することであり、それが実践されているのが扇町の家である。論考建築家の自由では自由に設計するために施工の責任を負ったことで、より鮮度のあるディテールを実現できたりセレンディピティに巡り会えたりするようになった経験が語られている。その点は納得がいく一方で、手の届く範囲の事が心地よく仕上がることに終始してしまい、その範囲外の想像力が疎かにならないかとも思う。スカルパは創造的で美しいディテールを実現したが、どうしてもそれ以上の事が語られることは少ない。その他、湖月庵はドーム状の外殻が現地の土で覆われアフリカの集落のような風貌を呈している。もう道場らしからぬ風貌。無柱空間。吉祥寺の家はT字を重ねた接道条件に対応するために配置した変形の六角形をきっかけに、ローカストで彫刻的な存在感や螺旋状のプランが展開されている。富ヶ谷路地の家はヴォリュームのスケールや外装や開口が、昭和の空気感が残る路地の雰囲気に溶け込ませている。一方で内部は立体的で白い仕上げと巧みな開口計画により様々な採光と通風を実現している。甲陽園の家は手運びできる要素で構造を作る方法としてのアーチから軸を振った連続ヴォールトを展開している。

ショーケースは雪や水への対応を考えることから計画を始める事で計画先行でない計画を考えている?個室を計画するとどうしても「ルーム」の概念から逃れられらないから、形を導く根拠を機能に求める事を止めようという試みの結果としてワンルームになりがちな点は理解できる。それほどまでにぼくたちには個室=「ルーム」の空間であると言う世界から抜け出せなくなっている。それはこの作品でも例外ではなくて、やや開放的な住まいとしての一階と、仕事場として使われる二階という「ルーム」の積層になっている。そう言う意味では厳密で小さな「ルーム」の連結から大きく大らかな「ルーム」の積層になったと言えるのかも。

菊名貝塚の住宅上池袋の住宅は同じ作家の作品であるとは思えないほどに違いがあるが、論考のタイトルアブダクション、欠性が共通項である。構造に絡みつく幾何学的な要素はアブダクショナルとも言えるか。

ニセカイジュウタクは建設会社のコンペによるものである。プランニングや構成により様々な使い方を許容することを目指しているのはいいが、この

政所の家幾何学的な構成を表現する白く素材感のない仕上げは、ひとまわり上の世代や時代を感じさせる。

特集に載せるのであればこの座組ならではの在り方を見たい。

鎌倉の屋根の家では、極端に大きな勾配と低い軒先を持つ屋根を架け、軒裏に面した外壁に大きな開口を設けるという時々見る形式。

 

緑町の家は設計者の自邸だろうか。1.5間の3次元ダブルグリッドで空間を作り、各場所に色々な機能をあてがう。そのような作り方を明示した例だと光の矩形があるか。東十条の住宅は似たような環境においてHOUSEAのように矩形をずらして噛み合わせる事で内外の関係を使っている。間無有は、家族構成の変化に対して、水回りから成る中心コアとそれを囲むひと続きの空間という、時々見かける問いと解のセットである。ここでは2階建てであることから断面的な展開がなされていること、南北にルーバーのあるテラスや吹き抜けが付属していることである。それらがコア型住宅の可能性をどのように拡張したのかを見せてくれるとより良いように思う。