建築再生日記

建築を見たり読んだり聞いたりして、考えたことを記録するメモ帳

新建築2021年3月号

富岡製糸場西置繭所保存整備事業は補強材と既存躯体のバランスがとても良い。既存躯体、補強鉄骨、ガラス支持材、補強強化ガラスと徐々に部材のメンバーが小さくかつ断面がシャープになっているのが良いのだろうか。一方でガラスによるハウス・イン・ハウス形式は、既存を標本のように扱う操作に止まっている印象も受けた。東京大学総合図書館 改修工事もある種同様の行為がなされている。保存・継承・更新と分類されそれぞれ丁寧な処置の蓄積で全体が出来上がっている。どちらも(杉並区立中央図書館全面改修も)重要な文化的資産であるから、ジャンヌーベルのリヨンオペラハウスみたいなことをする勇気はなかなか出ないだろうから、結果として地下に巨大な書架が生じたのだろう。それに比べて黄金湯はどこにでもあるマンションリノベ。経済的な理由もあってドミトリーを入れているのかも知れないけれど、銭湯利用者向けのロビーがもっと充実している方が、地元のコミュニティの維持や形成には役立つのではないかと思う。プログラムもデザインも攻めようとする事業主の意志は感じるものの、それがかえって利用者を限定するとも思われる。

なっつらぼの設計者はずっと福祉系の施設を作り続けている。色々な試行錯誤の経験を経てたどり着いた結論なのだろう、自分なりの5原則を提示している。コルビジェのアレンジであることは言わずもがな。テキストも建築も即物的だけれど、作者を突き動かしているのは弱者に対する愛情であることがよく分かる。

IYO夢みらい館 伊予市文化交流センター垂井町役場栃木県総合運動公園東エリアと公共建築が徐々に大きなスケールへと展開される紙面構成。垂井町役場は商業施設からのコンバージョンとのことで驚いた。過剰とも言える吹き抜けの表現は、これが新設されたものであるからか。その後は大会社による事務所ビルが続く。

311から10年が経過して東北での様々な取り組みが紹介されているが、こういうことはもっと社会に発信されるべきな気がする。芸術家気取りの個人ではなくて、民主的(=多数決の、ではない)な復興のコーディネーターとしての存在。